ヤンキー君とメガネちゃん

□大切な、弟です
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「お待たせしました!葉君」
「姉ちゃん」
ぱあっと顔を輝かせて、葉が花に笑いかける。
「急に来て、ごめん。姉ちゃんに会いたくなって・・・」
「大丈夫ですよ!」
「本当?」
「はい」
花が答えれば、葉は安心したように息をついた。

「じゃあ、一緒に帰りましょうか?」
「うん」

二人で歩き出して、
「あ、そういえば、さっき、葉君の事、彼氏?って聞かれました」
「!!」
なんでもないように花が言った言葉に、葉は動揺したのか、足が止まる。
「葉君?」
心配そうに覗き込まれ、やっとなんでもないよ、と足を動かしながら、それでも葉はまだ少し、動揺していた。
(彼氏、ってそんなものになれない、って知ってるけど)
その勘違いは、少し嬉しいのか、悲しいのか、よく分からないまま。花の隣に並んで歩く。

「かっこいいって言われてましたよ!葉君」
「ふーん・・・」
楽しそうに話す姉に、気の無い返事をする。
(姉ちゃん以外に何を言われたって、嬉しくもなんともないよ・・・)
葉にとっては姉が全てで、姉から以外の言葉なんていらない。それはおかしいのだろうか、と自分でも思ってはいるけれど、自分の感情は偽れるものでは無いのだ。

「姉ちゃんは、」
「え?」
「姉ちゃんは、おれの事。かっこいい、って、思う?」
自分でも何を馬鹿な事を言っているんだろう、と思っていた。それでも葉は俯いて、花の言葉を待った。
「はい、かっこいいですよ!」
たかが、そんな言葉。
自分の気持ちが伝わったわけでも無いし、自分が聞いたから答えてくれただけだというのに、それでも嬉しいと思ってしまう葉は、なんて愚かだろうと頭の片隅で考える。それでも、葉の頬は、知らずに緩んだ。

「置いていっちゃいますよー?」
けれど、一歩先に進む、姉の姿に、自分は手を伸ばせないその背中に。不安になるのも事実だ。
「ねえ、おれは、姉ちゃんの何なの、かな」
小さく呟いた葉の言葉に、花は不思議そうな顔をしながら何でもないように言う。
「葉君は、私の大切な人ですよ」
「姉ちゃ、」
「大切な、弟です」
「・・・うん」

『大切』『弟』
嬉しくて、悲しい。


「姉ちゃん。姉ちゃん、おれも、姉ちゃんが、大切」
だから、
だから、ちゃんと、「弟」で居るから、
おれのこと、傍に居させて。
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