ヤンキー君とメガネちゃん

□それが、“正解”なんだ
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「え……何で、品川く、」
「うるせえ」
互いの顔が、目の前にある。
千葉は震える手で、先程までその目の前の少年が触れていた自身の唇に、手を伸ばした。

「え、何……品川、くん?」
今さっきまで、自分が触れているこの唇には、品川の唇が重なっていたのだ。真っ白な頭で、千葉は必死で考えていた。
いつも通り、のはずだったのだ。いつも通りなんてことのない話をしていた。
ただ今日は、足立さんがいないから、品川君退屈そうだな、って。本当足立さんの事好きなんだなあ、って微笑ましく思っていたのだ。
なのに。
「なんで、今、……キス」
言葉に出したら、急に顔に熱が篭っていく。

「品川君、は。足立さんが、好き、なんでしょ」
思った以上に言葉が震える。
俯いたまま顔を上げられなくなった千葉に、品川の声が届いた。
「お前だって!」
品川の声は絞り出すような叫び。
「マコトの事好きなんだろ、馬鹿野郎……」
それから、ともすれば泣き出しそうな声になったのに気が付いて、千葉は上げられなかった視線をおそるおそる目の前の品川に向けた。
今度は、品川が拳を握り締めながら顔を俯けていた。
「っ……好きだよ!僕はマコトさんが」
「じゃあっ」
なんで、そんな反応するんだよ、と声にならない声を出す。
千葉がマコトの事を好きなのは知っている。マコトだって満更じゃないって事も。幸せそうで結構だな、と笑って言える。
だけど、さっき。「どうしたの?品川君」ってあんなに優しく笑ったお前が、悪い。
「顔近いよ、品川君」って引いてくれれば良かったのだ。なんで、避けなかった。
品川が握り締めた拳は、ふいに千葉の手に掴まれた。
「分かんないよ……っ!でも、じゃあ、なんで!品川君だって、そんな顔してるの」
「……!」
「品川君、ねえ」
「なん、だよ」
「あだち、さんがっ、好き……なんでしょ?」
確かめるような、千葉の言葉。
それはまるで、肯定をしろと言われているようだったけれど、否定をして欲しいようにも聞こえた。
どんな風に答えていいものか分からず、品川は口を開いては、また閉じた。

どうにか返事をしなければ、とようやく口を開いたが、出てきたそれは歯切れの悪い言葉だ。
「好き、だよ。けど、」
「品川君っ」
続きは、言わないで。
千葉はその言葉を飲み込む。「言わないで」なんて言ってしまえば、またそれも、まるで続きの言葉が分かってしまったみたいで、僕は身動きが取れなくなってしまう。
本当は、分かりたくなど無いのだ。分からないふりをしなければならないのだ。
だから、千葉は品川の名前を呼ぶだけで。ぎゅう、と品川の手を先程よりも強く握り締めた。


「品川君。品川君は、足立さんが好きなんだよ」
「……あぁ」
「それでね、」
「お前は、マコトが好きなんだろ?」
「……うん」

それが、“正解”なんだ。
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