ヤンキー君とメガネちゃん

□眼帯をつけた左目
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「なあ、葉」
「何だよ」
「お前、ソレ」
品川が左目を、トントン、と人差し指で叩いて、おれに聞いた。
「何でつけてんの?」
「……お前に関係無いだろ」
「ねーけどよ、気になるだろ」
「気にすんじゃねーよ」
「てめぇ……!」
質問を思いっきりはね除けたら、品川がびきっと顔を引きつらせる。
それを横目で見ながら、自分の左目にある眼帯に手で触れた。
チリ、とほんの少し。痛んだ気がした。

もういいわ、と怒りを呆れに変えた品川が、今度は何気ない世間話のように呟いた。
「そういやぁ、お前ら同じ位置にほくろあんだよな」
「……え」
身体が震える。
「ん?いや、その下だよ」
おれの眼帯を指差す品川の手が、何故だか無性に、怖い。
(待、てよ。そのさきは、)
「さすが姉弟だよな」
「……ッ!」

『ほくろの位置、一緒なんだ。やっぱり姉弟だね』

どくり、心臓が跳ねた。
(だから、こんなに、隠してきたのに)
「……だから、何だよ」
「は?」
「カンケーねえだろっ!」
「いや、お前、何そんなに怒って……」
品川が、戸惑った表情でおれの顔を覗く。
「…………葉、お前」
何時だか言われた言葉を、思い出して。その時に感じた言葉で表せない絶望感も、同時に思い出してしまった。
おれの顔は、無意識に歪む。


「これ、は」
眼帯の上から、ほくろの位置に手で触れる。
「おれと、姉ちゃんが姉弟って、証で、」
品川は、黙っておれの話を聞いていた。

「それは、繋がりでもあるけど、その繋がりは」
(時に、重くて)
「やっぱり姉弟なんだ、って。誰より、近いから、だからおれたちは」
それから先は言葉に出来なかった。
おれが次に口にする言葉を迷っている間も、品川はやっぱり黙ったまま、ただおれを見ていた。口を出す様子は微塵もなくて、けれど投げ出す様子も無い。
おれは顔を上げて、品川の顔を見た。
「駄目なんだ。知ってる、分かってる、理解してる。けど、どうしても!“これ”は、そんな分かりきってること、もう一度……っ」
(思い知らされるから)

「まあ、お前が何考えてるかなんて知らねえがな」
知らずに握り締めた拳は、やっと開かれた品川の口から零れた言葉で、ふいに緩んだ。
「なんにしろ、お前は足立が好きなんだろ。そんだけじゃねえか」
「……品川」
「どこが似てたって、そんなもん、それこそ関係ねえだろうがよ」

眼帯をつけた左目に、もう一度だけ触れてみる。
姉ちゃんを好きでいる事が、少しだけ許されたような気がして、おれは気が付けば笑っていた。
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