ヤンキー君とメガネちゃん

□これくらい、いいだろ
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足立と、付き合うことになった。
ずっとずっとずっと、長かった。
それで、その長年の願いが叶った今。俺は少々浮かれていたのかもしれない。



「大地、遅かったな」
「お、おぅ」
目の前に立った葉の顔を見て、初めて気が付いた。
ああ、やばい。こいつになんて言おう。
なんと言っても、こいつは究極のシスコンなのだ。まさか、俺が付き合う事になったなんて。
このシスコンがそんな事をあっさり認めるはずが無い。下手に言えば命取りだ。
いや、下手に言わなくともそうかもしれないが……。
そもそも、こいつが俺の話を信じるか怪しいな。「冗談きついぞ?言っていい冗談と悪い冗談があるだろ」と言われて殺されるかもしれない。
…………どっちにしろ、殺されるじゃないか、俺。
「えーー、と、だな。なんつーか、話があるんだがよ、」
「……何」
「足立に関して、つーか俺も関わってる、つーか……」
うーん、なんと言えば無事伝えられるだろうか。
付き合ったその日に死にました、じゃ俺が不憫過ぎる。なんとか命を差し出さずに伝える方法は無いものか。

俺が唸っている最中、葉の感情の無い低い声が響いた。
「聞いてる」
「え?」
「姉ちゃんに、聞いた」
俯いていて見えなかった瞳が、こちらを見る。其の目には何も映していなかったけれど、睨まれたように、感じた。
「よ……」
名前を呼ぶ前に、左の頬に、衝撃。衝撃を感じた場所には、葉の拳。
つまりは、殴り飛ばされた。
いきなり。
「ってぇ……」
本気だろ、今の。
正直、こいつに勝てる気なんて更々しないのだ。本気でやられたら、どうしようもない。
「足じゃ無いだけ、有り難いと思え」
その言葉と共に、もう一度重い拳が飛んでくる。
「うわっ……ちょ、待、ぐっ!ごはっ」
腹に捻りこまれたそれは、とても人の手とは思えない。鉛を落とされたみたいな衝撃で、俺の体は簡単に崩れる。

ゆらり、と葉の体が動いて、這い蹲った俺の近くに寄ってくる。
「ちょっ、ちょっと待った……!!落ち着こう、いや落ち着いて下さい!」
腕を目一杯伸ばし、俺は葉を制す。そんな俺を気にせずに、葉はゆっくりと足を進めていた。
「本当に!ちょっと待て、少しは俺の話を……っ」
ピタリ。
葉の足取りが止まる。
「本当は」
「え?」
「ほんとは、分かってたよ。何時か、こうなるんじゃないかって」
握り締めた拳を見て、気づく。
ああきっと、泣きたいのだ。こいつは。


「だって、どうしても……おれは、弟だ」
「葉……」
その声は悲痛で、きっと俺が殴られた傷より、葉の方が、今、痛い。
「だから、これくらい、いいだろ」
握り締めた拳に、葉の目から涙が落ちた。
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