ヤンキー君とメガネちゃん

□欲しかった
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ねえちゃん、


おれはしっているよ、

きっとおれは、しあわせになれないね、




「葉君?」

心配顔の姉ちゃんが、おれを見る。
おれはずっと、姉ちゃんにこんな顔をさせてばかりだ。ほんとは何時だって笑っていてほしいのに。
(おれのことを見る姉ちゃんは、いつも笑っていない)
駄目だね、おれは。
一番愛するひとを、一番幸せになって欲しいひとを、笑顔にすることも出来ない。

おれが、おれな限り。足立葉である限り、弟である限り。
きっと姉ちゃんのおれに対する表情は変わらない。

おれじゃあ、幸せにしてあげられない?

「こんなに、好きなのに」

「え?」
呟いた言葉に、姉ちゃんが不思議そうな声をあげた。
大きな目は、今は見開かれて普段よりもっと大きい。
「姉ちゃん好きだよ、大好きだよ……っ、でも、おれじゃあだめなんだよね、分かってるんだ、おれ」
おれはさ、姉ちゃんの弟だから。
あぁ泣きそう。相変わらず緩いおれの涙腺。
おれ今泣くなよ、ばか。泣いたら姉ちゃんがもっと戸惑う。
姉ちゃん困らせたいわけじゃないんだ。そうじゃなくって、
「おれは、姉ちゃんの笑顔が見たかったのに。それだけ、だけど、……おれは、笑わせてあげられない」

おれは、姉ちゃんが笑っていれば幸せだけど。
おれはおれだから、姉ちゃんを笑わせてあげられない。

それなら、おれが幸せになるはずもない。
おれはきっとこの世では幸せにはなれない。


ぼろっ、と大粒の涙が目から零れる。
また泣いちゃった。おれの弱虫。
「なんで、泣くんですか?」
「……っねえちゃ、わかん、ない」
「泣かないでください、葉君」
ごめんね、姉ちゃん。
心配そうな顔に、また更に涙腺が緩む。どうしようもない。

「私、嬉しかったんですよ。私も、葉君だいすきですよ」
「へ……?」
「笑えますよ、私。葉君の言葉で、笑えます」
ね?、と優しく微笑んだ姉ちゃんが。
俺の頬を両手で挟む。
ぼうっとされるがままになって、そうしたらいつもより距離が近い事にしばらくしてからようやく気付いた俺の顔は、徐々に真っ赤に染まっていく。
「葉君、顔赤いです」
「っぐす、だって、姉ちゃん……っ近、い」
慌てる俺を見て、姉ちゃんは可笑しそうな表情を作った。

「ねえ、葉君」
「な、なに?姉ちゃん」
姉ちゃんは言った。
「私笑えます、だから葉君も笑って下さい」
おれは涙をボロボロこぼしながら、ぎこちない笑みを作り上げた。
もちろん、今まで生きてきた何より嬉しい場面のはずなのに、それでも涙がとまらないおれを情けなく思う。
葉君は本当に泣き虫ですね、と姉ちゃんが優しい顔で呟いた。


いまだ泣き続けるおれの頬に、ゆっくりと姉ちゃんの唇が近づく。
ちゅ、と音がして、姉ちゃんは離れた唇からおれの一番欲しかった言葉をくれた。

「葉君、愛してます」

ああ、その言葉が欲しかった。
その言葉だけが聞きたかった。

「姉ちゃん、おれも愛してる」

涙でかすんだ景色の中で、ぼんやりと姉ちゃんの笑った顔が目に入った。
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