保健室の死神

□俺が、あいつのこと
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なんだか、イライラする。
分かんねーけど、イライラする。

不都合な事がおこったわけでもない。嫌な授業は全部保健室でサボったし、むしろ今日は機嫌も良かったはずなんだ。さっきまで。
なんでこんなにイライラしてんだ、俺。

「あれ、藤くん」
「……アシタバ」
おかしい。こいつに会うとイライラなんて無くなるのに。
今日は、更に俺をイラつかせた。
自分の感情が分からない。
「もう帰るの?」
「あぁ、帰るけど……お前は、」
「あ、僕ちょっと用事があって」
眉をさげて、アシタバが言う言葉に、
「そーかよ」
明らかに不機嫌な声を出したな、と自分でも思った。だから、すぐにその場を去った。
「ぇ、藤くん……?」
どうしたの、と言うアシタバをおいて、さっさと教室に戻る。今はこれ以上顔を合わせて話したくなかった。

「藤くん」
教室でさっさと支度を済ませて帰ろうとしたその時、話しかけてきたのはクラスの女。
ああ、また。イライラする。
「帰るの?」
「そうだけど、何」
「えっと、あの、また明日ね」
ただ帰りの挨拶をされたけど返す気にもなれず背を向けた。そこに現れたのは、アシタバだった。
「あ、ごめんね。待たせちゃって」
アシタバがすぐに話しかけたのは、さっきまで俺に話しかけてた、そいつ。
それから俺に振り向いて。
「あ、藤くん、バイバイ」
俺に手を振るアシタバ。それだけのことが。イライラする。
早く帰れ、って言われてるみたいで。なんだか嫌だった。
つーか、なんだよ、それ。ついでみたいに。


「……お前ら、さっき話してたよな?俺が保健室から出てきたとき」
話しかけたら、びっくりしたように二人の顔がこちらを向く。
「え、あ、うん」
「そういう関係?」
真っ赤な顔がふたつ。
ハッ、と嫌な笑いが出た。自分でも驚いた。
でも、イライラ、する。
「ち、違うよ!話してただけだしっ、」
「そういう事なら、俺は邪魔だよな」
アシタバの声を強制的に遮って、ヒラヒラと手を振った。お先に、あとは好きにどーぞ、と呟く。
ムカつく、ムカつく。
……ムカつく?
あれ、何でだ。俺に、関係無いじゃないか。
そういえば、なんでこんなにイライラしてるんだ。
アシタバがそんなに知りもしないクラスの奴と話して、赤くなって、そんなのが、全部全部イラつく。なんでそんな事――。

なんだよ、それじゃあ、俺。

あいつの事が、好きみたいじゃねーか。
「っ……」
バッ、と気づいた事実に顔を覆えば、俺の顔にはもう熱が篭っていた。
ありえねーありえねー、ありえねー。
なんで、あいつの事。
「俺が、あいつのこと……好き?」

だから、イライラしてたのか?


「藤くん!」
丁度、その時アシタバの声がした。
「おま、さっきの奴、は……」
こんがらがる頭で、必死に言葉を絞り出す。こんな想い、バレないように、と背を向けたまま言った。
「明日に、してもらった」
「い、いいのか、よ」
「だって、藤くんなんか、元気ないでしょ?」
心配したような声。
ドキ、と跳ねた心臓が。やっぱ好き、なのかもしれない、と知らせる。
「あいつ、優先した方が良いんじゃねーの」
ズキ。
あぁ、こんなに嫌な気持ちになるなんて、やっぱり。
「え?相談されてるだけだから、明日でも良いって言ってくれたよ。それより、今日は藤くんが心配だから」
「え、?」
俺を心配してくれた嬉しさと、勘違いした自分が恥ずかしいってのが、混ざって。
もう俺の顔は、赤なんてもんじゃ無いだろう。

「なんだよ、」
そんなの、勝手にイライラして落ち込んで喜んで――俺が馬鹿みたいじゃん。
ああもう、これからこんな感情と一緒に生きてくなんて、困るだろ。
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