保健室の死神

□いつかは「好きな人」
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「なあ花巻」
突然声をかけられて、更にはそれがあまり話したことのない相手だったことに驚きながら、花巻は慌てて返事をした。
「や、安田くん。なっ何?」
「あー、えっと、お前、ってさ」
安田は話しかけた側だと言うのに、ごにょごにょと歯切れの悪いフレーズを呟いたあと、その続きの言葉は出てこない。
「なんつーか、その」
なかなか相手の言いたい事が理解出来ない花巻は、首を傾けてハテナを浮かべるばかり。
その間も安田は、うー、とかあー、とか唸っている。
「あの、安田く、」
「だ、だからさ!」
何か言おうと口を開いた花巻の言葉を途中で強制終了させ、
「お前って藤が好きなの……?」
安田はようやく、ぼそり、と呟くように問いかけた。

一瞬、間があいて。

「えっ……えぇえ、な、何でっ」
顔を真っ赤にして、あわあわと慌て始めた花巻に、安田は「なんとなくだよ」と顔をしかめた。
「で、どうなんだよ?」
「えっ、あの、藤くんは……憧れ、だけど、えっと……」
それから、少しの沈黙が流れて、
「ふーん」
と、声を先に出したのは、安田だった。
「憧れ、なんだ」
「う、うん」
「じゃあさ、好きなやつの枠には今誰もいねーの?」
「えっ……」
じぃーーっと花巻の顔を見続けていると、小さな、本当に耳を澄ましていなければ聞き逃してしまう程の小さな声が、安田の耳に届く。
「今、は、いない……かな」
そう言い終わった花巻の顔は、もはや真っ赤に近い。
安田はもう一度、「ふーん」と言ってから、少しだけ花巻から目線をズラした。
「安田くん?」
黙りこくる安田に、自分は何か悪い事をしただろうかと花巻が困った顔でおろおろする。
それを横目で見て、やっと口を開いた安田から出た言葉は。
「最後の質問にすっからさ、答えてくんね?」
「あっ、うん」
「花巻。気になる人、は?」
「っ!?」
また、赤みが増えていく花巻の顔を、目を逸らさず見つめる安田。花巻はその視線に耐え切れずに、目を伏せた。
「あ、の。気になる人は、」
ふと、花巻の目が、安田の目を見上げる。
短くて、長い、そんな沈黙。
「一応、います……」
言った後の花巻の顔は、ふしゅ〜と煙さえ出てきそうなものだった。

「……おっし。じゃあ俺、好きな人、に格上げになるように頑張るわ!!」
突然、安田が声を張り上げる。
「え!」
「じゃっ、なるべく早めに格上げしてくれよな!」
にかっと笑って手を振り、その場から去っていく安田に、真っ赤な顔のまま、ぼんやりと花巻は手を振った。


「や、安田くんとは……言って無いのに」
真っ赤な顔の花巻が、ぽつ、と
「何で分かっちゃたのかなぁ」
困った声で呟いた。
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