保健室の死神

□やさしいやさしいきみのことば
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「あっ、そこのふたり!」

「「え?」」

「これ、運んでくれない?」
先生に声をかけられて、断る間もなく大量のプリントが私の方に向かって差し出される。
「えっ、あ……はい」
というか、断れない、って知ってて先生も押し付けるんだから、ちょっとひどいよね。と思うけどそれを口に出せないから私は駄目なんだよなあ、とも思った。
ふと横を見れば、そこのふたり、と言われたもうひとりはアシタバくんで。私と目が合うと、ちょっと困りながら苦笑した。

「花巻さん、アシタバくん、よろしく」
プリントをとりあえず私の両手に置いた先生は、これで自分は関係無いとばかりに足早に去っていった。
両手にのっけられたプリントは、紙と言えども大量にあったのでかなり重い。
(これ……ちょっと重い……)
「あ、半分持つね」
先生に運ぶように頼まれたもう一人は、私の手から半分より少し多めにプリントをとってくれた。
(あ、アシタバくんの方が、多い)
「アシタバくんっ!それ、ちょっと多い、よ」
言ったら、その子は分かってるよ、と微笑んだ。
「僕、男だもん」
それから、歩き出したアシタバくんの背中は、まだまだ私と変わらないくらい小さい気がしていたのに、なんだか妙に頼もしく見えた。

先に歩き出したアシタバくんに小走りで追いつくと、その目は私に振り向く。
「また、押し付けられちゃったね」
笑うアシタバくんの顔に、「押し付けられちゃった」なんていう言葉の割りに、全然嫌そうな様子なんて伝わってこなくて。
(ぁあ、この人は)
優しいんだなあって思った。

「なんだろう、僕たち、押し付けやすいのかなあ」
うーん、とアシタバくんは眉を寄せる。
「う、うん。そう……なのかな」
私も首をひねった。
「でも、そのおかげかな」
「え?」
「花巻さんと、ちょっと仲良くなれちゃったね」
「……っ」
嬉しそうにそう言ったアシタバくんを、私は直視出来なくて俯いた。
自分でも顔が赤いんだろうなって分かるくらいには、熱を持っていた。
「それだけは、嬉しいかな」
少しだけ照れながらそんな言葉を言うアシタバくんに、私は。
「うん……私、も」
なんて呟くように言うだけで、精一杯だったのだ。
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