保健室の死神

□小さな恋。
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この身に宿った小さな恋が、いつか報われる日はくるのでしょうか。


あぁ先生、大好きです。大好きです。

貴方が私を向いてくれる、そんな日は。
何時か、くるのでしょうか。



「鏑木さん」
(皆曰く怖い)笑顔で差し出されたお茶。
ありがとうございますと受け取れば、どういたしましてと返って来る。その笑顔は、とても素敵だと思うのだけど。
それを藤くんなんかに言ったらきっと、「目おかしいんじゃねえのか?」とでも言われるのだろうが。

お茶を啜りながら、いつもの風景を眺める。
今日もアシタバくん達が保健室に居て、そして私もこの場所にいる。いつの間にか習慣になった。
すう、と息を吸い込めば、保健室の匂い。
……先生の匂い。

次の授業をさぼるだとか言ってる藤くんに、困り顔のアシタバくん。美作くんは「ほっとけ」とアドバイス。
がやがやした三人組を微笑ましそうに見ている先生。
その顔は、本当に皆が愛しくて仕方が無いって表情だ。
残りがほとんど無くなったお茶の最後を飲み干しながら、その風景を見つめる。まるで自分だけ遠くにいるみたい。
そんな事を思っていたら、ばちっと先生と目が合った。
慌てて目をそらそうとすれば、にこり、とハデス先生は笑った。皆がいくら怖い、と言おうとこの笑顔は素敵、だと思う。


でも、それは。
私だけに向けられるものでは無いから。


私は曖昧に微笑んで、ハデス先生から顔を背ける。
しばらく俯いて、再びこっそりと覗き見た先生の横顔は、また三人の方へ戻っていて、とても優しい顔をしていた。
その横顔を見つめながら。誰にも聞こえないように、こっそりと呟く。
「私は、やっぱり、生徒、ですか?」
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