保健室の死神

□ほんの少しの愛情入り
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「ねー」
「…………」
「鈍ー。鈍ちゃーん」
「何。凄く鬱陶しいわ」
にらみを利かせるが、阿呆のような顔で鈍を見ている経一には効いていないのだろう。
「今日なんの日か知ってる?」
「知らない」
バッサリと経一の言葉を切り捨てると、さすがに今度は少し落ち込んだようだ。
かくん、と首を落として黙ってしまった。
「何なのよ。めんどくさい」

おずおずと顔をあげた経一が、ぽつり。
「俺の誕生日なんだけど」
「誕生日?」
ああ、そういえば。
カレンダーを見る。今日の日付を見れば、そこには経一の独特の字で“俺の誕生日!!”と書かれてあった。
「あら、あからさまね〜」
呟いて、ため息を一緒に吐いた。

「鈍ちゃん?」
経一を残して、その場から何も言わずに立ち去った鈍を、経一はきょとんとした顔で見送る。
しばらくして経一のもとに帰ってきた鈍の手には何かが握られていた。
「ん?何それ鈍ちゃん」
鈍の方へと歩を進め、手の中にあるものを覗き込もうとした経一に、その瞬間鈍の手を離れてそれが飛んで来た。
「わっ、わっ」
いきなり放られたので慌てつつも、落とさないようにと必死で受け止めた。
それから、手の中におさまったものを見る。
「これ……」
「あげる」
鈍がポン、と放ったのは、たかだか板チョコ一枚。
「もらえるだけ良いと思ってね。あなたの為に行動するなんて、」
こんな珍しい事無いんだから、と冷たく吐き捨てようとしたが、
「これプレゼント!?」
それは経一のはずんだ声で邪魔された。
「え?」
「すっごい嬉しい!!ありがと鈍ちゃんっ!」
にっこにっこ笑って、まさか貰えるとは思ってなかった、と呟く経一を、眉を寄せて見つめる。
(実はそれ、あなたが前にとってきた“戦利品”なんだけど……)
経一の顔を見れば、まるで無邪気な子供のように、「鈍ちゃんからプレゼント!」と感動しているらしかったので、それは言わないことにした。

(……もう少しマシなもの、あげれば良かったかしら)
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