保健室の死神

□きっと、優しいひと
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「竜美さんみたいな人がお姉さんなんて、リュウキが羨ましいです」


学校帰り。憧れの人を見かけた。
声をかけようかどうしようか、迷っていたらあっちから声をかけてくれて。
俺は“途中まで一緒に帰る”というこの状況に、ほんのちょっと浮き足立っている。

そんな中で、ふと思った事を口に出してみる。
お世辞でもなんでもなく、横にいると温かくなってそんな風に思った。
「ありがとう」
そうすれば、竜美さんは俺の方に向かって微笑んでくれた。
「でも、刀哉くんにも、良いお姉さんいるじゃない?」
「いや、でも、なんていうか。全然竜美さんとは比べ物になりませんし……!」
姉の姿を思い浮かべる。
不器用なあの人は、目の前の人とはむしろ正反対だ。

「お、俺はっ竜美さんみたいに、優しくって、気が利いて、器用で、」
美人で。
ぽつ、と最後は聞こえない声で言う。
それからまた声量を少し上げる。
「そんなお姉さんに憧れてるんです」
竜美さんの顔を見る。
その顔はまた、笑みを浮かべていて、唇からはありがとうの言葉が漏れた。
それに続いて、
「刀哉くんのお姉さんは、器用じゃないの?」
と、少し可笑しそうにクスクスと笑い声。
「全然です」
「気も利かないの?」
「全然」

難しい顔で応える俺の耳に、相変わらず竜美さんの笑い声が響く。
「あら、じゃあ優しくないの?」
「え、」
優しくない。竜美さんの言葉がぐるりと俺の脳内を回る。
姉ちゃんの顔を思い出す。それと、いつも背中に俺を庇う、あの姿。
眉根を寄せた。姉ちゃんの姿と、優しくないという言葉。どうもしっくりこなかった。
「そんなことはないです、けど……」
俺がぼそぼそと呟くと、竜美さんはとても楽しそうに微笑んだ。
「そう。お姉さん、優しいのね」
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