保健室の死神

□既に手遅れ
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「なぁんかさあ、あいつ。やたらとアシタバにくっついてね?」
そう言って藤を指差したら、俺の横に居た美作と本好がぽかんと口を開けて間抜けな顔をした。
「な、なんだよ二人して……」
「いや、え?今更?」
「安田、今まで気づかなかったの?」
あれ?……もしかしてコレ、何当たり前の事言ってんのって空気?
「え、ていうかマジで?藤ってそういう感じだったの?いや、うん?確かにアシタバ男にしちゃ小さいし、目もくりっとしてるし、」
可愛いけど、と言いかけて、いやいやあれ?可愛い?と首をひねる。
「そうだね、アシタバくん可愛いから……あんな奴に惚れられて本当大変だよね」
今さらっと可愛いって言ったな、本好。
じゃあ俺の思ったことは変じゃないのか?いや、どうだろう。
だってアシタバ男じゃん。

「ふーん」
アシタバと、藤。
あの藤が、確かにアシタバと居る時だけは何か雰囲気が違う。あの誰でも選び放題イケメンが、惚れた相手がまさかねぇ。
「……ちょっとチョッカイ出してこよ」
にや、と口の端が自然と上がる。
俺の足は既に二人のほうへ歩きだしていた。
「あ、ちょっと安田」
「あのバカ。余計な事しなけりゃいいが……」


「あーしたばっ」
「うわ、えっ安田くん?」
どしゃ、と小さいアシタバの背中から覆いかぶさって、肩に手をかける。
くりん、と丸い目が俺のほうを向いた。開かれた目は、近くで見ると大抵の女子より大きいんじゃねーかコレ、と思ったくらいだ。
「なに話してんだよ、俺も混ぜてくれよ」
「え、何って、普通の世間話だよ?」
不思議そうに答えたアシタバの声に重なって、憎きイケメンの声が聞こえる。
「お前が好きそうな話はしてねーから」
――去れ。
藤の目が、言葉にしていなくともそう伝えてくる。
ホント、マジだなこいつ。
こんな態度されちゃ、更に気になってくるってもんだろ。
「まぁ俺ちょっとアシタバと話してみたいと思ってたからさー」
ぎろ、と完全に藤に睨まれた。最早殺気が出てるかもしれない。分かりやすすぎてちょっと笑いそうになる。
「そ、そうなの?」
「うん?ん、そうそう」
俺が睨まれている最中、アシタバが上目遣いで俺を覗く。
え、なにこれちょっと可愛い。嘘だろ、えっなんか藤の気持ちが分からないでもない。
「そっか、そう思ってくれてたんだ。なんか嬉しいな。特に面白い話ないんだけど、一緒に話そっか?」
はにかみながら、俺に向ける笑顔。
「……おう」
あれ?やばいかも。
今の一瞬で俺、オトされちゃった?

それから先、藤の視線の怖いのと、アシタバの上目遣い+遠慮がちな笑顔の破壊力で、なんかもう何を話したかは覚えていない。
ああ、こんな筈じゃなかったのに。ちょっとからかってやろうと、そんなつもりなだけだったのに。


「アシタバー?」
長かったような、短かったような。
藤とアシタバに挟まれた時間は、アシタバを呼ぶ他のクラスメイトの声で終わりを告げた。
「あっ、えっと何か呼ばれてるから行ってくるね」
正直ほっとした。
やっと終わった、って思った。
のだけど。

アシタバが、居なくなった瞬間。
「!?」
藤に詰め寄られ、ガッと胸倉を掴まれた。
え!?藤ってこういうキャラだっけ!?聞いてないんだけど!?
「おい、テメー何邪魔してくれてんだ、殺すぞ」
ちょっとちょっとちょっと!キャラ崩壊!!
完全に目がアブナイ人!
「いや、邪魔するとか、そういうんじゃなくて、アシタバと単純に話してみたかっただけだし。な?いやうん、可愛いよな、アシタバ。可愛いですね、お前の気持ちも分かるよ、うん、だからさ……えっと……手、放してくれませんかね…………?」
藤の苛立ちを緩和させようと誤魔化すようにベラベラしゃべってみる。
すると逆に、藤の目が鋭くなった。
「お前、好きんなんじゃねーぞ」
ダラダラしてる普段の姿からは想像もつかない威圧感。
「はは……」
なにこれこわい。

いやでも、すんません。もう、遅いから。
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