贈り物
□『雨の涙と嵐の想い』
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夕焼け色に染まる窓の外から、微かに帰宅を急ぐ生徒の声が聞こえる。
ただ、それだけ。
いつも見ていたから、気付いた。俺だけが気付いた、ツナの視線の先。
(…獄寺…?)
愛おしそうに見つめる、その意味を理解して、俺は。
気持ちが胸に押さえきれずに、溢れ出してしまった。
「山本…?」
だから抱き締めた。獄寺と同じように、俺を見てほしくて。
薄紅に染まった放課後の教室、ずっと触れたいと思ってたツナの白い背中を見た途端、自然に体が動いたんだ。
後ろからそっと抱き締めて━…
「ツナ…、俺お前のことが好きだ」
俺の言葉にピクリと揺れる細い肩、きっと驚いて見開かれた瞳。早い鼓動を感じて身体が熱くなる。
伝わる体温、比例して。
「…スゲー…好き。俺のこと、見てよ」
同じように、じゃない。俺だけ、その瞳に映して。
◇ ◇ ◇
…山本に『告白』された。
校門の前で待っていた獄寺くんが、オレの姿を見つけて笑顔になる。
「10代目!有りましたか?忘れ物!」
「…あ、うん。見つかったよ。…ありがとう」
良かったです、なんてオレの右側を歩きながら たわいもない話を始めるいつものような帰り道。
オレにとっては大切な、かけがえのない時間、いつもなら…そのはずなのに。
(…どうしよう)
さっきの山本と有った出来事を思い出して、頭ん中ぐちゃぐちゃで…つい上の空で獄寺くんの会話に相づちを打ってしまっていた。
「……目?10、代目?」
「Σえ!あっ、何!?獄寺くん!!」
しまった!ぼーっとしてたっ!?
怪訝そうな獄寺くんの深緑の瞳が、オレの顔をヒョイっと覗き込む。
ドクン!
「…何か、心配事ですか?」
「ううんっ、何でもないよ?ごめんね?ぼーっとしちゃって!」
行こう?って脚を進めようとした途端、獄寺くんは引き留めるようにオレの腕を掴んだ。
ビクリとする。
夕陽を背中越しに見てるから、彼の表情が見えない。だけど、一瞬俯いた顔をあげて、オレの目を見て獄寺くんは━…
「俺…10代目が、好きなんです」
気持ちを吐き出すように、言葉を紬いだ。
「…困っていることや、心配な事があったら、力になりたいんです。
貴方が…好きなんです…」
『好 キ』
息が止まった。ただ視線が外せなかった。真剣な彼の瞳、震える声。
それはオレが待ち望んでいた言葉だった。ずっと、欲しかったんだ…っなのに何でっ!?
(何で、涙が出るの…っ!?)
一歩後ずさるオレに、獄寺くんが掴んだ手の力を込める。
「っ、10代目!?」
「…ごめん、ごめんね?獄寺くん」
オレは思わず駆け出していた。きつく繋がれた手を振り払って。
(嬉しいのに、苦しいよ!!何で…っ!?)
次から次へとこぼれ落ちる涙が止まらなくて、ただ、悲しくてたまらなかった。
◇ ◇ ◇
それからしばらく夜は眠れなかった。目を閉じると次々と山本と獄寺くんの顔が浮かんで…。
学校でも、知らず避けていた。二人に対して不自然な態度になる。
獄寺くんと、山本の関係も不味くなってる。
(ダメだ、このままじゃ…っ!)
ただ、はっきりしてるのは『オレが』好きな人。
「…獄寺くん」
布団を掴んで頭からかぶり直す。気持ちが固まっていてもそれでもこんなに苦しいのは、…山本もオレにとっては大切な、大切な存在だからだ。
仲間で、親友で、憧れの存在。
『友達より野球を大事にするなんて、お前と屋上ダイヴするまでだぜ』
胸に染みる大事な言葉。
(だから━…)
瞳を閉じる。答えを出さなきゃいけない。苦しい想いを閉じ込めて。