短編小説A

□『その白き聖域の』
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「だっ、大丈夫ですか!?10代目…ッ」

「う―…ダメ、気持ち悪い…」

さっきまで我慢して気丈に振る舞っていたのが、今一気に来たようだ。
正月三が日、初詣にて。


 ◇ ◇ ◇


「ワリィ、山本! 10代目、大分具合悪いみてーだ。酔い覚ましてからお連れすっから」

「わかった、チビ連れて先行ってるな。後で連絡くれな」

「おぅ、
さ…10代目」

「ごめん…獄寺くん…」

楽なように、と肩を支えれば、キュッと服の裾を掴まれ寄りかかられてドキッとする。
(俺はなんて節操の無い…ッ
10代目は具合が悪くてらっしゃるのに!)

そう。

人より小柄な10代目は、初詣に出掛けたものの、人の波に揉まれて気分が悪くなった上我慢してお神酒を口にされ、挙げ句、酔いが一気に『気持ち悪さ』となって襲って来たのだ。

「ほんとごめんね獄寺くん、オレ、こんなんで…」

「何を言ってるんですか!いいんですよ、気持ちの悪い時くらい人を頼っても」
(全くこの方は、ご自分がつらい時はどこまでも我慢なさって…)
お神酒を口にしたのも、周りにはやし立てられたからなのだ。
こんなになるまで気付かなかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。

「うん…でもね…へへ、知ってるんだ。
獄寺くん、人込みでオレが潰されないように背中でかばってくれてたでしょ?」
つらそうなのに、でもにっこり笑って。

「…ッ///」
(…そのくせ人の気遣いには敏感で)
頬が熱くなる。

人込みを避け、少し離れた木立の中の石の上に獄寺は自分のジャケットを敷くと、遠慮する綱吉を無理やり座らせた。

「…ハンカチ濡らしてくるッス、少し待ってて下さい」

うん、と言う、か細い声を背中に聞く。

(全く、かなわない)
 


 ◇ ◇ ◇


(あっためた方がいーのか、冷たい方がいーのか)

とりあえず、冷たく濡らしたハンカチと、温かい飲み物を用意して綱吉の元へ急ぐ。

「10代―…」
愛しい人の姿を目に留めてドキッとした。

神社の清涼とした空気の中、喧騒から離れ佇むその姿、
元から白い肌が、青身を帯びて凄絶なまでに神々しい。

(10代目―…)

侵しがたい美しさとは、こういう事をいうのではないか。

獄寺は声を掛けるのも遠慮して立ちつくしてしまった。

すると、綱吉の方が獄寺の気配に気付いてにっこりと破顔した。
「獄寺くん!」

(うわ…ッ///)
ヤられた。
神が人間になった…

ずるずるとしゃがみ込み、参った、と言うように頭を抱え髪をクシャリと掻き上げる。

「どど、どーしたの!? 獄寺くん」
綱吉は自分の気分の悪さも忘れたように、座り込んだ獄寺の傍に近寄った。

「10代目…すいません」

「え?…ん、ん―…っ」
そのまま小さい頭に手を回し、堪えられない、というように口付ける。

(神に詣でるまでもなかった)

「―…は、ぁ」

(俺にとっての『神』は、貴方1人なんだから…)


 

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