短編小説@
□『背徳』
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オレは熱に犯されている。
どんなにヤメテと懇願しても、どんなにその手から逃れようと抵抗しても、彼の腕から逃げられなかった、あの日から━…
蝕まれてる。…ずっと。
◇ ◇ ◇
はだけられたシャツの内側に、もう彼の触れていない所はない、と思う。
「━…は…ぁ」
手首、固定されなくても、両腕…力、入んないよ…
熱い指先が、乱暴に身体の輪郭をなぞるから。
もう、オレの思考はメチャクチャ。ただただ、襲ってくる羞恥と快楽に耐えるしかなくて。
「━…んっ…やめッッ」
離された唇から、混ざりあった唾液が流れ落ちるのがわかる…ぞくりとする。
耳許でクチャリと音をたてながら耳朶を甘く噛まれ、濡れた舌が鎖骨をなぞり、
落ちて。
「ハァ…じゅ…代、目」
うなされるように繰り返される、オレを呼ぶ、声…
重なる肌の感覚も初めてで、感じる人の重さも初めて、で、
もう、何がなんだか。
(━━…なのに…)
流れる涙も、どうして?
髪の一筋でさえ、乱暴にされているはずなのに、どうして?
獄寺くんが、哭いているように感じるのはどうして?
優しく感じるのは…
(オレは、一体、どうして━…?)
「━━ッッ!」
ビクリとする。
制服のズボン越しに、彼がオレ『自身』に触ったから━…
「いっ…や!」
ベルトを外される音が耳を打つ…結局オレは何にも分かっちゃいない!
恐怖しか感じない!獄寺くんが━…、これから何が起こるか、なんて、
本気でオレがどうしたいかなんて━━…、
「━━っっイッヤアァァァ!!」
叫んで、弾けた。
◇ ◇ ◇
…叫び声と共に、炎が舞った。
炎は『彼』の回りで幾重にも閃き、幽玄を醸し出していた。
その中心、10代目。貴方。
乱れた衣服、肌に紅い華を幾つも咲かせて。
━…琥珀色に冴える瞳、
近づき難いヒト。
「…帰る」
縛ったのは、一瞬?
手に入れたと、思ったのに。
ほどけたタイだけが、俺の部屋に残された。
━…それが夢の残絲━