魔法少女リリカルなのはStrikerS
□第一話「出会い」と「始まり」と
1ページ/2ページ
旧き結晶と無限の欲望が集い交わる時
死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る
死者たちは踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち
守護者の法の船は砕け散る
預言者の著書<プロフェーティン・シュリフテン>より抜粋
ある日、芝居をしようと誰かが言った。
そうしようと誰かが言った。
役者を決め、舞台を作り、そして誰かが気がついた。
役者が足りないと。
どうしようと誰かが言った。
舞台はもう完成間近。役者がいないと芝居はできない。
どうしようと誰かが言った。
そして、誰かがこう言った。いないのなら、できる者を作ればいいと。
もうじき役者がやってくる。
誰かが作った。「世界」という名の舞台へと。
魔法少女リリカルなのはStrikerS
第一話「出会い」と「始まり」と
――――――――――――
――――――
―――
♪〜♪〜♪〜♪〜
『まもなく終点。首都クラナガン、ステーションエリアへ到着します。御下りの際には荷物を持ち忘れないよう注意してください。繰り返し―――』
「…………ぁ」
列車内に響くアナウンスの声で目が覚める。どうやら眠ってしまったようだ。
まあ、目的地は終点なのだから、別に眠ったままでも良かったかもしれないが、そうも言ってられない。
寝起きで多少潤んだ瞳を手で擦り、隣に置いた旅行用バッグを肩にかけて立ち上がると、そのままホームへと降り立つ。
改札口を通ってステーションから外へ出ると、吹く風が、そっと髪を撫でた。
「…………」
しばらくその風に吹かれてから、ポケットから携帯を取り出す。
午前十一時。街を見ながら歩けばちょうどいいだろう。そう思い、携帯をポケットにしまう。
一瞬、右手首につけた十字架を象った、シルバーブレスレットが日の光を反射したのかキラリと輝いた。
それを横目で見て、バッグをかけ直すと、青年、「姫宮刹那」は歩き出す。この先にどんな運命が待っているかも知らぬまま……
※
あれから約一時間。目的地へ向かう途中、首都クラナガンの街を見物しながら歩き続け、やっと辿り着いた場所、学園エリア。
その中で、これから自分が通うことになるザンクト・ヒルデ学院の校舎を見上げて、姫宮刹那は、
「………………」
絶句していた。
理由は一つ。それは、その校舎が恐ろしく巨大だったからだ。
まあ、ここはミッドチルダの首都だし、この学院が幼・小・中・高・大と全て一貫性だから、これだけ大規模になるのだろうと、半ば強制的に納得して自分を保つ。
コクリ。
一つ頷いてから学院内へと足を踏み出す。最初の目的地は教員室だ。
※
さて、考えてみよう。
何故、自分がこんな状況に陥っているのかを。
まず一つ。ここが自分にとって初めての場所であること。
二つ。ここがとても大きく広大だということ。
三つ。ここに来るまで誰一人として出会わなかったことだ。
そして、これらを踏まえ自身に起こっていることを厳然たる事実として認め、それを可能な限り簡潔に小さな子供にも理解できるように説明しろと言われれば、それはたった一言で事足りる。
その答えとは、
「迷った……」
それは、お約束という名の運命だったのであろうか。
姫宮刹那は完膚なきまでに迷子であった。
さて、どうする。携帯で時間を確認すると、現在午前十二時を少々回った所。この時間であれば普通は昼休みといった所だろうから、人とは全く会わないというのはあり得ないはず。
まあ、人が来ることが滅多にないという場所に迷い込んでしまった、などという可能性も無くはないわけだが…
そこまで考えて、首を振って暗い思考を打ち消す。昼時であるなら、ここから離れれば人がいるだろう。そう思って移動しようと足を出しかけた時、
「ねぇ」
…………?
後ろから声がした。思わず振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。ロングヘアーの茶髪を左右片方に纏めた、いわゆるサイドポニーという髪型。自分を見つめる、どこか深みを帯びた黒い瞳。童顔なのか、ぱっと見てみると少々幼さが残る。綺麗というというよりは可愛らしいと言えるだろう。
服装は白を基調に、アクセントとして肩部が青く、また、袖にも一本青いラインが走っている上着に、青一色のタイトスカートという出で立ち。おそらくこれが制服だろう。
そして、首から紐で吊るされた小さな赤い宝石が、胸元で淡い光を携えていた。
「どうしたのかな?こんな所で」
「あ、ああ。実は……」
再度、女性に話し掛けられて、はっとして事情を話し始める。今日ここに編入して来た事。その手続きのため教員室を目指していた事。しかし、その途中道に迷ってしまった事を話すと、
「あはは。この学校、広いしね……」
と苦笑いした。
「全くだ。それだけ設備が充実しているんだろうが、広すぎるのも考え物だよ」
「そうだね。あ、そうだ。良かったら今からわたしが案内してあげようか」
その言葉に少々考える。
「それは、こちらとしてはありがたいが……いいのか?君自身の予定もあるだろう」
「それは大丈夫。それより、あなたの方が心配だよ。案内無しで行ける自信ある?」
痛い所を突いてくる。ああは言ったが、正直な話彼女の提案は渡りに船だった。
「ならお願いするよ。こちらとしても、一人で辿り着けるか自信はまるで無い。現に、こうして迷っている所を君に発見されたのだからな」
やれやれだと首を横に振る。そこでふと気がついた。
「そう言えば、まだ互いに名乗ってはいなかったな。俺の名前は刹那。姫宮刹那だ」
「なのは。高町なのはだよ。よろしくね、刹那君」
※
「はい。ここが教員室だよ」
道中、様々な場所を案内してもらいながら
ようやく目的地にたどり着く。広いとは思ったが、こうして案内してもらうと、更に校内が広く感じた。
ふっと息をつく。
「ああ、案内してくれてありがとう。おかげで無事、編入手続きをすませられそうだ」
「あはは。それじゃ、またね刹那君」
「ああ。機会があれば、また」
そう言って、去っていくなのはの姿を見送って、教員室の扉を開けた。
※
Other Side−NANOHA・TAKAMATI−
姫宮刹那が教員室へと入っていくのを離れた所から確認し、高町なのははふっと息をついた。
そもそも、なのはがあの場所で刹那を見つけたのは決して偶然などではない。
授業中、学院の敷地内に配置してあるサーチャーが、突如強大な魔力反応をキャッチしたのだ。
そして、その観測結果に、彼女は驚愕した。
魔力ランク 推定SSS
信じられなかった。そんな魔力を持った物が存在するなど。
いや、いるにはいるのだろうが、それこそ天文学的確立だ。なのは自身がそうなのだから、これは確信できる。
それでも彼女の魔力ランクはS+。この学院の最強戦力である彼女の親友、八神はやてでさえも魔力ランクはSSだ。
管理局の魔導師?いや、そんな人は今まで見たことも聞いたこともない。
魔力を持った一般人ということも考えられる。
そして、その中で最悪なのは、その何者かが自分達の『敵』であるという可能性。
仮にそうだとしたら、勝つのはかなり困難だろう。
そして、自分なりに思考を続けた結果、授業の終了と同時になのはは教室から飛び出していた。念話で仲間に連絡しようかと思ったが、あれだけの魔導師であれば念話を傍受される危険があったため断念した。
戦闘になった場合、一人で戦うはめになるが、あらかじめ警戒されるよりはましだ。
焦燥を顔に出さず、そして出来る限り急いで現在反応がある場所へと向かう。
そして出会った。
彼の青年、姫宮刹那と……
※
なのはが懸念していた人物は、すぐに見つかった。それもそのはずで、誰もいない廊下の中心に、白いパーカーと多少着古したジーンズという私服で、一人ぽつんと立っていたからである。
なのはは、青年にゆっくりと近づくと、出来るだけ普通になるよう努めて声をかけた。
「ねえ」
一瞬、青年の体がピクリと反応し、そしてこちらを振り返る。
少々ざんばらなアッシュブロンド。青みがかった黒い瞳は、氷で出来た刃物のように鋭い。中世的な顔立ちで、男性にも女性にも見て取れる。
「どうしたのかな?こんなところで」
「あ、ああ。実は……」
こうして、道に迷ったという青年の案内を買って出て、そして今に至っている。
そして、なのはが彼に抱いた感想は、
「割と普通の人だったなぁ」
であった。目つきが少々あれなので冷たい印象を受けるが、あれは単に表情を作るのが苦手なだけだとすぐに理解した。
ちなみに、彼は魔導師ではなかった。念のためにサーチャーが配置してある所も回ってみたが、ついぞそれに気づくようなことはなかった。
ふと、もし彼が魔導師として覚醒し、自分達の仲間になったとしたらどうなるだろう、と考える。
そして、
「きっと、とても楽しいだろうな」
と笑った。
Other Side−NANOHA・TAKAMATI−out
※
編入手続きは滞りなく終了し、刹那は再び校内を散策していた。もちろん、再び迷うことのないようにマップをもらってだ。
しかし、やはりこの学院は広い。
現在、時刻は午後六時を回ろうとしている。ちなみに手続きが終わったのは二時近くといった所だから、それから四時間は散策に費やしたことになる。
「さて……」
空を見上げる。
そこは綺麗な黄昏色で染まっていた。
日も落ちてきている。今日はもう十分だろう。
そう思い、自分に割り当てられている寮へと向かうため身を翻し、
――――――瞬間。
世界が……変わった。
※
言葉が出ない。
あまりに突然の事態に声を出すことは愚か、体を動かすことさえ出来なかった。
何が起きた?
かろうじて首だけなら動かせたので、周りを見渡す。
見たところ変わった所など何処にもない。しかし、意識では何かが違うという微かな、しかし絶大な違和感と、しかし、何が違うのかがまるで理解ができないという矛盾を確かに感じていた。
そして、刹那が感じていたのはそれだけではなかった。
この世界は……何もない。
この世界には……誰もいない。
そう、この世界には…
「俺しか…いない……」
それは、まるでこの世界に自分一人だけが取り残されたような、圧倒的なまでの孤独感。
「…………!」
瞬間、背中に凍るような悪寒を感じて体ごと右に飛ぶ。
―――――刹那。
ほんの一瞬前まで自分がいた場所を何かが掠めていった。同時に、
「ぐっ……」
左足に激痛が走る。見るとジーンズの裾は焼け落ち、その下の足首はひどく爛れ、血が滲んできていた。
足の痛みを気力で堪えて背後に目を向け、
「……………っ!!」
驚愕した。
そこにあったモノをどう表現すればいいだろうか。
強いて言うなら子供の玩具だ。
楕円形で左右が青、中央が灰色をして。中心に金色の眼のようなものがある。
そして、信じがたいことに、それは地面から離れ浮遊していた。
「くっ……」
それから逃れようと立ち上がり、しかし足に激痛が走り、転倒する。
あれがこちらに『眼』を向けた。ピタリと、赤い点が胸をポイントする。
逃げなければ。しかし、体は凍りついたように動かない。
あれの『眼』に青い光が集まり、そして……放たれた。
※
あれが光を放った瞬間。刹那は反射的に目を瞑り、やがてくるであろう自らを死へと誘う衝撃に身構えた。が、
『プロテクション』
不意にここにはいないはずの女性らしい声を聞いた。ゆっくりと目を開けると、
白い光の壁のようなものが展開され、放たれたそれを受け止めていた。
何が起きたのか理解できない。唯一理解できるのは、自分が死を免れたということだけだ。
すると、
『防御魔法の正常起動を確認。次の指示を』
と、先の何者かの声が聞こえた。周りを見渡すと、視界の端で右手首のブレスレットの中心の宝石がキラリと光を放った。
「まさか…」
『そうです陛下。今のは私です』
「先に次の指示をと言ったな」
『はい』
「あれを何とか出来るか?」
指差す。
『はい。私を正式起動させれば可能です』
「そうか。なら頼む」
『イエス・マイロード』
アンクレットの宝石が再び光を放つ。
『スタンバイ・レディ.セットアップ』
瞬間、ブレスレットが姿を変えた。
銃のようなグリップに六連装の回転式弾倉。両刃の刀身。諸々、ガンブレードと呼ばれるものだ。
『バリアジャケット・ストレイトフォーム』
そして、今度は服装が変化する。
白いラインが走る漆黒のインナー。漆黒のズボンに足を保護する同色のアーマー。
手を保護する漆黒の指ぬきグローブ。そして、白を基調に所々灰色のラインがはいったロングコートが現れた。
『正式起動完了。ソードフォーム。カートリッジセット』
「………」
それが、起動したのを確認して立ち上がる。痛んでいたはずの足首は、不思議と痛みが引いていた。
「お前、名前はあるのか?」
それにたずねる。
『ミッドチルダ式インテリジェントデバイス<アイオーン>です』
それが、アイオーンが答えた。
「分かった。ならやろうか。アイオーン」
『イエス・マイロード』