愛しい人


〜Kazuya.K〜















『……ごめん』



また…。
今月に入って何度目だろう。
約束断られたのは。

もう今月も終わるっていうのに、1回も顔を合わせていない。


「いいよ、別に。私も調度仕事入っちゃったし」

『……ごめんな』


嘘のフォローも見抜かれちゃうくらい。



和也は責められない。

最近になって年明けのドラマが決まって、さらに会えなくなる。

たった数分の、それでも毎日かけてくれる電話もそろそろ難しくなるだろうな。
前のドラマの時もそうだったから。



特殊な職業だし、休みなんて不定期なの分かってる。

……分かってるけど辛いよ。








電話を切って、ふっ切れた様に涙が…。


毎日会ってる和也の仕事仲間が羨ましい。
1ヶ月以上も会えない恋人なんて

意味がない。



会いたいよ、和也。




数分後に届いた"おやすみ"のメール。
返信出来なかった。







Pull Pull Pull…


仕事の帰り道。
携帯画面には"田中聖"の表示。

珍しい…
どうしたんだろう。


「はい、」

『あ!今大丈夫?』

「うん、どうしたの?」

『あのさっ、そんなたいした事ないっちゃ無いんだけど…っ』

「え?何言ってるの?」



胸騒ぎ…



『かめが…ッ』











―――……



  『かめが…ッ…倒れた!』



タクシーを飛ばし、都内の病院に駆け込んだ。

嘘…
和也…


ガチャッ――


「和也っ…」

「……あ、」


静かにベッドで寝ている和也の脇に、聖が座っていた。


「和也は…」

「レッスン中にいきなり…」

「………。」

「疲れ溜まってたみてぇ。こいつプロ意識強ぇから。
今日は1日入院して、明日からまた仕事。」

「そんな…」


ベッドに寄ると規則正しい寝息。

1ヶ月ぶりに会った和也はたいぶ痩せてしまっていた。
こんなに無理してたんだ。



「俺…悪いけど打ち合わせ残ってるから行くな?」

「ありがとう聖。頑張って」


申し訳なさそうに微笑みながら病室を出て行った。




白い額に手を載せた。
猫っ毛を掻き分けてあげると、うっすらと目が開いた。


「……ん…」

「和也…」

「ん…あれ、俺…」

「あ、動かないで。仕事中に倒れたみたい。」

「……、」


プロ意識の高い和也は、私の言葉に酷くショックを受けた。


「和也…」

「久しぶり」

「え、」

「昨日はごめんな。デート…」

「え、そんなっ!気にしないでって」



横たわったまま苦そうに笑った。
私はばかだ。
恋人がこんなに弱ってるのに気がつきもしないで。

自分ばかり悲劇のヒロインぶってて。



辛いのは
本当に辛かったのは…
和也だったのにね。


「次のオフは絶対デートしような」

「ううん。次のオフは…
私が和也の家行く。一緒にいよ。
1日中。」




毎日側にいれなくても、
一緒にいれる1日を大事にしたい。

ねぇ、和也もそうでしょ?


「じゃあ、手作りオムライスでも作っちゃおうかな」


そう子供みたいに笑う和也は
私のたった1人の


愛しい人。








 END.


08.11.16


感想を書いてくれた人には、† Re: †にて返信しています´∀`)



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ