差し上げ物
□たいよう
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「ユーリ!!!」
体を照り焼く日差しがまぶしい。
そんな中、頭上から聞こえる自分を呼ぶ声を聞き少し頬をほころばせながらまぶしい太陽に向かって手を振ると、それはにっこりと笑って、こういうのだ。
「ユーリのばぁああか!」
たいよう
「ったく、あいつは」
何も考えてないのかと心の中で舌打ちをしながらどたどたと隠せない大きな足音を立てながら階段を勢いよく駆け上がる。
はじけるように階段を上がってすぐの部屋を開けると、そこはすでにも抜けの殻だった。
「今日は裏口か……」
はぁ、と大きくため息をつくとタイミングを見計らったかのように下から「残念だったね、ユーリ」という女将さんの笑いが混じった声が届いた。
ここの部屋の主である人間は先ほど、下町を歩くユーリに声を掛けた人物であるし、ユーリにとっては幼馴染という存在でもあった。
悪口だって笑って誤魔化せる仲だし今まで気にしたことだってなかったが。
自分たちだっていい年なのだ。
それにほかの人間が見ているところであんなことを言われたら、ユーリに刺さる視線がとても痛いのだ。
大半の人間はいつものことで「仲がいいのね」とほほえましそうに見るが、事情の知らない人間に「何あの人」みたいな雰囲気にさらされるのだ。
何度も何度も注意をしたがそれは一向に改善されてなく、むしろ悪口の幅が広がった気がする。
最近はユーリの行動パターンを心底理解したらしく、こうやって逃げるのも上手になった。
脱ぎ散らかしてあるパジャマがこの部屋の主が消えたことを物語っていた。
「しょうがねぇな……」
今日の夜、また来ればいい。
何せ、幼馴染以外にもお隣さんという切っても切れないものだし。
前にうらやましい関係だと揶揄されたこともあるが、うらやましいものか。
「変わってほしい……いやそれはだめか……」
うん、だめだ。
と自身でも意味のわからない自問自答繰り返しながらユーリは部屋をあとにする。
たとえ羨ましくない関係でも、言葉を変えてしまえば他人に譲れない関係なのだ。
さて、いろいろ事件もあり今日の予定はなんだっけと思い返しながら、宿屋を出ると陰がユーリの上に伸びた。
そして悪びれる様子もなく言うのだ。
「エスケープ成功!」
と俺を指さし腹を抱えて笑う、彼女。
いつも自分の部屋から手を伸ばして笑いかける彼女、だか少し違和感が感じる。
今日のヨテイのことはすっかり忘れ、間違え探しの絵を重ねるよう記憶の風景を重ねる。
そういえば、いつも手を振る彼女の部屋の窓から昔、ユーリがプレゼントした鉢植えがあったはずだが、それがない。
隣の部屋の窓にその赤い花は誇らしげに咲いていたのだ。
「あいつ……!俺の部屋から」
ユーリは再び全力疾走で階段を駆け上がる。
今度こそ捕まえられるだろうか、たいようを。
たいよう
(いつも近くで笑っている君)