差し上げ物

□真っ暗闇のなか、君がわたしを見つけてしまったから
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私の世界は黒い
それは真っ白だったキャンパスを黒い絵の具で汚したかのような爽快感と遅れてやってくる背徳感を味わった、そんな気分だ
私の世界は醜かった
私の世界はとても汚いものに変わった
平凡と言う学生生活を白と例えるなら、私が堕ちた今の生活は黒となるだろうか
ただ、他人より優位に立ちたかった
誰よりも優秀でいたくて、それこそ寝る間も惜しんで勉強もした
そんな私に声を掛けたのは科学者を名乗る女性だった
「超能力者になりたくはありませんか?」


その一言はまるで体に染み込みこんだ
脳に響いて体を揺さぶった


それから私はもっと努力をした
息苦しいのも、
頭が割れるような痛みも、
四肢が引き裂かれるような苦痛も、
毎晩寝れない苦しさも、
全部我慢した

でもそんな日は幸いにも長くは続かなかった

私が初めて殺した人間は私に希望を与えた女研究者だった

この女は私に一つの結論をつけた
私は超能力者になることは出来ない、と

人を殺した人間の末路は刑務所か裁判所かその先の死刑だと思っていたのに私が行き着いたのはそんな甘いものじゃない
学園都市の暗部

人を殺してよしとされる世界
他者を貶めないと生きていけない世界

「ばかみたい……」
馬鹿は自分だ。
自業自得の癖に、

ビルの屋上からこの世界を見下ろすと沈んでしまった自分だけが黒く汚く見えて仕方ない

「オイ」
「ん?」

背後から声を掛けられても振り向かない他人の顔を直視したくなかったから


「呼び出しだ、とっとときやがれ」

乱暴に声を掛けてきたのは、学園都市でも七人しかいない超能力者の第一位である一方通行だ
いわば今の私の先輩と言うのだろうか


「にしてもよォ、んな場所でなに油売ってンだよ、自殺希望者か」
「そんなところかも知れないですね」
「あ?」


ふぅと長い息を吐く
フェンスに絡ませた指を解きたくないのも、振り向きもしないのは多分今此処から離れたくないからだろう

「もしそうだって言ったら背中を押してくれるでしょうか」
「くっだらねェこと抜かしてるンじゃねェよ。そんなに死にたかったら一人でいけよ」

そう、短く話を切り上げると私はビルの屋上から真っ暗闇の世界を見渡す
ここから墜ちれば私は自由になれるだろうか
壊れた世界で、今の死に怯えることない

ふと、肩を掴まれびくりと震える私の体

「ンな死にたくねェなら、俺の背中の後ろで引っ込ンでろ」
「え?」

粗雑な言葉、戦闘に置いても「消えろ」「足手まといなんだよ」そんな言葉しかくれない一方通行から出た始めて私に語りかけた言葉。

「死ぬ気も覚悟も戦う覚悟もねェやつが俺の前に立つんじゃねェ。お前は自分が一番大切なンだろ。だったら必死に自分抱きしめてろ」
「……一方通行は大切な人を学園都市から守りたいんですよね」
「……あァ」

同じグループのメンバーである土御門が言っていた一方通行の暗部に居る理由とグループのメンバーの戦う理由。
そして学園都市を見返して自由を手に入れる。


それに比べ私は自由を求めるだけの力も理由もない。

「……生きてェと思うだけで立派な理由じゃねェのか」

なんでと言いかけた私に「お前の考えは顔に書いてあるンだよ」と掴んだ肩を突き放すように言ってそして

「お前の言う自由とはかけ離れてるかもしれねぇが連れて行ってやるにその日まで絶対死ぬんじゃねぇぞ」
「………っ……うん」

杖を持ち直し歩き出した一方通行は振り返ることは無かったが、嗚咽を繰り返しながら涙を流す私を見て居られなかったのかもしれない。



もう一度世界を見渡せば、ポツポツと灯りが消えて行くのが見える。
私の希望はとっくに消えたと思ったのにたったの一言でまた
また再び


世界が色付いて見えた気がした

(わたしもきみをみつけた)



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