屑


□三日坊主
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「お願いですからどうにか聞き入れて頂けないでしょうか」

目の前に恭しく跪く、あまり出来の良いとは言えない(私が作ったのだから出来が悪い訳が無いのだがおかしな事だ)魔道具兼従者を見遣って、私は再度長い溜め息を吐いた。
幸せが逃げるとは云うが、どちらにせよこの子が私自身にもたらす事は何れも不幸な事なのだ。

「詰まる処、貴方が私の役に立った場合、私に貴方の言う事を聞いて欲しいと」
「その通りです」

全く。任務成功率が特に高い訳でも無しに随分と大きく口を利かせたものだ。
いっそ其の儘口端に小刀(ナイフ)でも滑らせてやりたいとひっそり思いながら、私は出来るだけ冷ややかに子供を見る。

「私に命令を聞けと?」
「勿論、無体な事は致しません」

言い終わらない内に明瞭りと返される。
その言葉の裏の邪心なぞ私にはとっくに見え透いていると云うのに、創り手に似たのか口の減らぬ道具だ。

「成程、『無体』と云うのは総て貴方の基準に成ると」
「とんでも無い。ノア様が拒むのなら」

選りに選って脳の精巧さが似ないとは。
私は半ば哀れに思いながら吐き捨てた。

「ならばさっさと私の前から消えて貴方の仕事を全うしては頂けませんかね」
「、え」

嗚呼これだ。
この表情この眸の色。
見ている此方が居心地が悪くなって来る。

「いつから見返りなんて求める様になったんでしょうねえ。創り直さなくては」
「お、お待ち下さ、」
「  」

醜く弁解しようと足掻きかけた身体は瞬きをしたら爆音と共に鉄屑に変わって居た。

「面倒ですねえ、魔導書も未だ半分も完成して居ないのに」

私にも此れでもう何体目か記憶が無い。
何故道具で有るのに無駄に感情を持つのだろう。

感情と道具は言ってみれば正反対だ。どちらかが有ればどちらかを棄てざるを得ないのに。

「誰で在れ何で在れ、生き動く物は皆強欲と云う事なのでしょうね」

もはや何も喋らない鉄の固まりを足先で弄んだ。
一筋上がった煙は否定か肯定か。
もうどちらでも良い。益も無い塵に興味は持てない。早く新しい従者を創らなくては。

今度こそ私を辱める様な物にはならねばいいがと、私はその時本日三度目の溜め息を吐いたのだった。









前のゴフェノアがあまりに報われすぎたので。相手はゴフェルじゃないけども
まあゴフェルもこう云う事になって行くと思います。でもノア様はゴフェルについては大方諦観の気持ちを抱いているので半ばされるがままだといい。

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