寓話

□哀色
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気がついたら僕は傍観者になっていた。
静かな往来の中、深紅に染まってゆく躯を
叫びながら抱きしめている背中を、
僕はそっと傍観していた。


  哀色


夏祭り。
高揚した声に山車の雅やかで明るい調、
そして愛する人の無邪気な笑い声。

君は子供のように僕を引っ張って、その笑顔を輝かせいたよね。
温かい手を握って、はぐれないようにと祈ってた。
君の名を呼べば、穢れない笑顔が僕を照らす。
まるで夢みたいに幸せなんだ。


でも僕はいつも不安だった。
君は眩い位に素敵だけど、僕は・・・?
君の隣にいていいの?
答えの出ない問いを繰り返した。

だけど君は言うんだ、僕が好きなんだと。
だから僕は笑った。
僕も君が好き。
ただ一つずっと想い続けた君の隣にいられる理由。
そう、誰より君が好きだということ。


夏祭り。
鮮やかな灯りに星たちのきらめき、
そして愛する人の軽やかな笑顔。

少し焼けた君の横顔が街の輝きに彩られる。
楽しそうに話している君に僕は胸を高鳴らせて笑う。
君は青く透き通ったかき氷を目を輝かせて食べる。

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