寓話

□哀色
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耳元で鼓膜を突くように叫んだブレーキ音。
一瞬の静寂と衝撃。
時が止まったかと錯覚する程ゆっくり流れてゆく景色、君の表情。
真っ暗な闇にはまだ早い夕空の下に響いた君の声。
そうして僕は、君が緋に染まる僕を抱いている姿を見ていたんだ。


暮れかけた陽が雲を染めてあまりに綺麗だから、
僕たちは建物に邪魔されずにそれを見たいと思ったんだ。
君の髪は夕日に照らされて赤くそよぐ。

少し離れた歩道橋に行こうと並んで歩き、徐々に人気がなくなって、
まるでこの夕空の中に2人包まれたかのようだった。
静かになってゆく。

交通規制区域も終わり、代わりに現れたのは車の気配。
君の声は車の音にかき消されないように少し大きくなった。


晴天の青を鮮やかに赤く染めてゆく太陽。
浮かんだ雲も色を変える。
そして東の空には夜が迫り始める。
薄暗くなってゆく空に君の表情もおぼろになっていった。

ふいに僕が落とした携帯。
硬い音を鳴らしてアスファルトに転がる。
僕が振り向くと、そこには君。
落ちた携帯を拾おうとかがんだ君を見て、気付いた。


君が好きだから。
誰よりも好きな人だから、僕は飛び出した。
誰より愛しい君のことは、僕が守るから。
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