寓話

□酔待月
2ページ/8ページ

 
その子は同じ高校に通っていた子で、3年の時に中退して結婚し子供を産んでいた。

少し酒を飲んで、にわかに熱った頬を撫ぜる夜風は冷たい。
人もまばらになったホームでぼんやりと立っていた。
少し上を見上げると、向かいの煌々としたホームの上に、黒をいくつも塗り重ねたような空が広がっていた。
その中に白いような銀色のような冷めた色をした月があった。
右に寄った三日月で、漆黒の空の中でそれだけがクリア。

何を思ったわけでもないが、その月を瞳に焼きこめるように見つめた。
少し酔いの残る頭に清かな冷たさを注ぐように見えた。
心地よい冷たさ。

しばらく眺めていると、ふと形が歪になってゆくことに気が付いた。
月がその下のマンションの屋上に堕ち始めていたのだ。
下の方から徐々に徐々に力なく滑り堕ちてゆく。

ああ私が回ってるんだ、地球が回るから私もマンションも回ってる。
でも待って、月も回ってる。
私の周りをクルクルと回ってる。
でも私も回っているから、あれ分からない。
何だ何だ、月が回ってるんだけど私も回ってるから・・・。

頭の中がグルグルとして、また酔いが回った。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ